My Cinema Talk World: 蔵の中 ― 金田一が出ない横溝作品

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2017/10/29

蔵の中 ― 金田一が出ない横溝作品

けれん味に固執するがあまり原作の世界を壊してないか?!


リアルタイムで劇場で鑑賞した映画です。
その頃、まだ私の中では横溝・角川映画ブームは消えていなかったし、横溝作品については“金田一もの”でない本作が新鮮だったのでしょう。
当時ニューハーフとして話題になっていた松原留美子が、主人公 笛二の姉役で出演するということもあって、好奇心と期待で公開が待ち遠しかったことを記憶しています。
映画を見ている最中も、逆光でヒゲの剃り跡が青く見えないかとかチェックしたり。
そんな映画を取り巻く瑣末なことは覚えているのに、映画のラストを忘れてしまっていたという信じられない状況です。
久々に映画『蔵の中』をみて、当時の自分の反応を思い出しながら初見のような新鮮な気持ちになったりもしました。

蔵の中

監督: 高林陽一 / 製作年:1981年

ストーリー
評論雑誌「象徴」の編集者 磯貝(中尾彬)のもとへ蕗谷笛二(山中康仁)という青年が原稿を持ち込む。
普段は持ち込みの原稿は読まない主義の磯貝だが、原稿を読まないうちは転地療養に出発できないという。
磯貝は独特の風貌をした青年に憑かれるように原稿に目を通し始める。
そこには、胸の病(結核)を患う姉小雪(松原留美子)と弟笛二の信じがたい真っ暗な蔵の中での暮らしぶり ―― そして磯貝自身まで登場するのだった。

キャスト
蕗谷笛二     / 山中康仁
小雪     / 松原留美子
磯貝三四郎     / 中尾彬
お瀞     / 吉行和子
真野玉枝     / 亜湖
おみね     / 小林加奈枝

スタッフ
監督     高林陽一
製作     角川春樹
プロデューサー     山田順彦 、 稲葉清治
原作     横溝正史
脚本     桂千穂
撮影     高林陽一  津田宗之
音楽     桃山晴衣
美術     井川徳道

小雪役にニューハーフの火付け役 松原留美子


まず、出演者がいいです!
 亜湖さんとか...百恵ちゃんのドラマに脇役で出たりしてて懐かしいって感じ!
例によって本作でもちょっとしか出ないけどエロい役ですよ。
(沢田研二の『ときめきに死す』にも出てましたね。)
中尾彬さんは、原作ではここまでエロ臭だしてないだろってくらいイヤらしさ全開です。
本作を監督した高林陽一監督の『本陣殺人事件(1975)』で金田一耕助を演じていました、しかもジーンズ姿という軽装で。
高林監督といえば、谷崎潤一郎の小説を映像化したような独特の世界を作り上げていますが、本作でも御多分に洩れず、その路線です。
ただ、私個人としては当時劇場で見たときは絶賛だったのはずですが、今見ると手放しで褒められないという感想です。
小説の中の世界感を若干崩してしまっている気がします。

病を忘れて覗きに夢中になる姉弟


以下、かなりネタバレに近いのでご注意ください!

真っ暗な蔵に白い肌
白い肌に真っ赤な血
次第に狂っていく美しい姉

笛二と小雪は原作にはない、近親相姦の関係になってしまいます。
原作本でもそれを想像させているので許容範囲だと思います。
病気が進行していく姉 小雪との蔵の中での一連の出来事と蔵の窓から遠眼鏡で覗き見した信じられない光景(磯貝が殺人を犯してしまう)との平行進行は少々いただけません。
けれん味を出しすぎ雰囲気重視がすぎて、全体を眺めるといささか中途半端な出来になってしまったようです。
姉が血を吐き瀕死の状態なのに、他人の痴話の覗きはどうなのかな? と考えてしまう。
雰囲気はいいのです、ヒッチコックの裏窓的な遠眼鏡での覗き、その先に繰り広げられる男女の表には俗っぽくもあり、子どもが覗いてはいけない禁断の世界。
吉行和子の婀娜(あだ)さと中尾彬のいい男っぷりが最高です。

今、時代が流れて見直すと、耽美的美しさで色香を漂わせていたはずの松原留美子が妖艶を通り越して怖いです。
時々、怒った表情をするところが特に恐ろしい ――
美しい女優さんに見慣れてしまったためか、今見るとさほど美しさも感じられないのだが。(角度によっては男顔になるし)
読唇術で聾唖の姉が話していることを読み取るはずが、姉の口が動いていなくても勝手に読み取っている不思議は、もはや笛二の想像の世界だった ――
ラストは、小説とは違っています。
ギョッ!とします 。

ラストでは磯貝の目の前に信じられない光景が!

しかしながら、こういう映画を今「作れ!」と言っても作れないと思いますよ、うん。
そういえば、遠眼鏡で覗く風景の中に大林宣彦監督と角川春樹氏がカメオ出演しています。

10代の頃夢中で見たテレビドラマや映画って、やはり特別なのですよね。

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