ジョン・クラカワー原作「荒野へ」の映画化です。
クラカワーの原作本は読んでいました。クラカワーがアラスカで腐乱死体で発見されたクリストファー・マッカンドレスという青年に興味を持ち、クリストファーがアラスカにたどり着くまでに出会った人々、彼を知る人たちや家族から聞き取りしたことを一冊の本に纏めたのが原作本になります。
当初この本が「アウトサイド」という雑誌に掲載されるや否や何ヶ月間も多くの手紙などが送られてきたといいます。
「彼は一体なんてバカで愚かものなんだ」というものと「理想を貫き通した立派な若者だ」という二通り..賛否両論です。
この本を読んで映画化を望み、感動して自らメガホンをとりたいと考えたのがショーン・ペンです。原作本を感動のあまり何度何度も読み返したそうです。彼の熱意はこの作品に素晴らしい映像となって見事に返り咲いています。私は本で読むよりも映像で見るほうがしっくりはいってくる気がしました。
やはり目の前に広がる壮大な自然の中の人間という非力で小さな存在がきっちり映像として描かれているからだと思います。
ショーン・ペンの作品にこめた愛情と主人公クリスへの深い共感がよく伝わってきます。
撮影はエリック・ゴーティエ。そう、モーターサイクル・ダイアリーズの撮影を担当した方です。
DVDの特典映像でペンのインタビューがあって「『モーターサイクル・ダイアリーズ』のように大自然を撮りたいんだ。だからゴーティエに真っ先に話を持ち込んだ」っぽいことを熱く語っていたました。ちなみに彼が撮影した作品では「そして僕は恋をする」(1996)も好きです、私!
ストーリー
優秀な成績で大学を卒業したクリストファー(エミール・ハーシュ)はある日、家族にも何も告げることなく車やお金を捨て、放浪の旅に出る。道々短期間の労働とヒッチハイクをし、さまざまな人と出会いながらアメリカから目的地アラスカへと北上する。アラスカの人気のない荒野へと分け入り、捨てられたおんぼろバスのを拠点に生活をはじめるのだった。
キャスト
クリストファー・マッキャンドレス:エミール・ハーシュ
ビリー・マッキャンドレス:マーシャ・ゲイ・ハーデン
ウォルト・マッキャンドレス:ウィリアム・ハート
カリーン・マッキャンドレス:ジェナ・マローン
ジャン・バレス:キャサリン・キーナー
ウェイン・ウェスターバーグ:ヴィンス・ヴォーン
トレイシー:クリステン・スチュワート
ロン・フランツ:ハル・ホルブルック
レイニー:ブライアン・ディアカー
スタッフ
監督・脚本 ショーン・ペン
原作 ジョン・クラカワー『荒野へ』
製作 アート・リンソン、ショーン・ペン、ウィリアム・ポーラッド
撮影 エリック・ゴーティエ
編集 ジェイ・キャシディ
作品情報
原題 Into the Wild
公開 2008年9月6日(日本公開)
上映時間 148分
製作国 アメリカ
物質社会からの脱却
多くの指摘の通り、彼の行動は思い上がりや親への当てつけ、若さゆえの無謀な行為に思えます。クリスは映画の中で「文明に毒されないように生きてきた…精神の革命を成し遂げる」と言っていました。なぜ文明に毒されたくなかったのか?クリスと同じくらいの年齢の若者は旅に出ることは考えても物質を切り捨てることは考えもしないことでしょう。
つまるところ、やはり彼の思考の中には父母への反抗が渦巻いているのだと思います。
両親の離婚、家族のもめ事、そして自分が父親の私生児だということを知ったときの絶望感。すべてにおいてお金で解決する両親。
おそらく物質社会への嫌悪感=両親への嫌悪感だったのでしょう。
「文明に毒されないように生きる」と言う彼ですが、本に毒され過ぎていたようにも受け取れます。
彼はまだまだ20代前半のいわば頭でっかちの青二才。
しかし、彼には誰にもできないような確固としたもの、目的意識に基づいた行動力がありました。
またクリスは
「人生で必要なことは実際の強さより、自分を強いと感じる心だ。」とも言っています。これって、私はチェ・ゲバラの本でチェが似たようなことことを言っていたので「なるほどー」と感心した言葉なのですよね。
そのゲバラでさえ、若い頃の旅ではお金を持ち歩いていましたが、クリスは学資金として親が送っていたお金をある団体に寄付し、残ったお金も旅の始めに燃やして出発しています。
まるで、今まで生きてきた自分を抹殺するように…
彼は、この旅の途中から自分の名前を”アレクサンダー・スーパートランプ”と名乗るようになります。
さまざまな出会い
ヒッチハイクしながら、途中で何ヶ月かの短期間労働でお金を稼いで旅を続けていたクリス。さまざまな人々との出会いがあります。
彼は、親を拒絶はしていますがすべての人を否定している訳ではなく、人一倍のコミュニケーション能力も持ち合わせています。
相手の傷みをすぐに理解してその心を癒すような言葉と人懐こい性格にクリスと出会う人びとはみな惹かれていきます。
ヒッピーの中年カップル ジャン(キャサリン・キーナー)とレイニー(ブライアン・ディアカー)、大農場で大勢の労働者の中心になり働くウェイン(ヴィンス・ヴォーン)、ヒッピーのベースキャンプで出会った女の子トレイシー(クリスティン・スチュワート)、退役した老人ロン(ハル・ホルブルック)。
なかでも私はジャンとのエピソードが好きです。彼女は何の連絡もないまま消息を断っている若くして生み育てた息子がいます。クリスに息子の面影を重ねていて彼もジャンの心のうちをしっかり理解して息子のように接しています。
クリスはウェインを特に慕っていたようで、彼に自分と似ている部分を見いだしていたような感じがしました。
クリスを気に入っていたヒッピーキャンプの歌姫 トレーシーに「夢は手を伸ばしてつかむんだよ」と別れ際に言った言葉がとても響きました。そういう彼自身は物質社会を抜け出し何に到達しようとしていたのでしょうか。
待ち受ける壮絶なラスト
クラカワーの原作本を読むと、いよいよアラスカの荒野に入る前に親しい人たちと別れる際に泣いていたとの証言がありました。ウェインに「これがぼくのさいごの手紙になるだろう…あなたはすばらしい人だ。ぼくはこれから荒野へ入っていきます」という内容の手紙をしたためていました。
彼は死ぬために荒野へ入っていったのでしょうか?
彼が亡くなってしまった今、クリスの本心を知る人はいません。
彼の旅は成長の為の一歩であり、アラスカでの経験やアラスカまでの旅を経て他者との関わりを知り、やがて素晴らしい相手と巡り会い結婚し人生の辛苦を味わいひとの親になり、やがて自分の親の気持ちも少しずつ知って行っただろう。。。これはあくまでも私の中で旅を無事終えたクリスのその後を勝手に思い描いてみた想像です。
クリスは慎重な性格でした。アラスカの荒野で暮らす為の知識も事前に書物で身につけていました。
書物を読むだけでは成功を得られないということをおそらく失敗を経験して知ったでしょう。
彼は荒野に閉塞状態になり身動きがとれなくなった時、誰かに助けを求めるためのSOSの文書も残しています。
そして
「幸福が現実となるのはそれを誰かとわかちあったときだ」
衰弱したからだでトルストイ(だったかな...)の本に書き込むクリス。
気がついたときはすでに遅すぎました。
最期のシーンが壮絶で...自分も死の直前はあんな風なのかと息をころして見ました。
悲しすぎるラスト。
エミール・ハーシュ、大作に出ているわけでもなく日本ではあまり知られていないけれど演技派ですね。
実物のクリストファーとエミールが同一人物であるように錯覚するほどでした。
ウェインを演じたヴィンス・ヴォーンももっと評価されるべき俳優でしょう。
若い頃というのは、いくつかの間違いを経てその経験から成長して行きます。
クリスは、不幸なことに自身の命を落としてしまう致命的な間違いを犯してしまいました。
私はそんな彼を愚か者とは思えません、彼はたまたまアンラッキーだったのです。クリストファー・マッカンドレスのアラスカまでの一連の旅はそのような安易な言葉では表わされないものだと感じます。
最後に是非ブルーレイで鑑賞することをおすすめします!
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