My Cinema Talk World: ドラゴン・タトゥーの女

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2012/06/15

ドラゴン・タトゥーの女

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寒々としたスウェーデンの風景…そして物語の幕開け...と思いきやツェッペリンの「移民の歌」(カバー曲である)が1本の独立したミュージックビデオとして流れる。のっけからかなりのインパクト!
次々と画面にあらわれるのはグリーンを帯びたモノクロ画像、無機質でメタリックなオブジェのよう。
さすが数々のミュージックビデオの秀作を生み出したデビッド・フィンチャー。細部にも作り込まれた拘りが感じられる。
そう、そんなワケですっかり冒頭で不意を突かれてしまったのだ。
本作品は、スティーグ・ラーソンの著書であるミレニアムシリーズ第一作「ドラゴン・タトゥーの女」の映画化である。
��2009年に本国スウェーデン版もすでに製作、公開されている。こちらもなかなかの出来ではある、ただミカエル役の俳優がどうもしっくりこないカンジだった)
長い原作をよくぞここまで凝縮できたと思う。デヴィッド・フィンチャーに拍手、パチパチパチ!しかしながら、まずは原作者スティーグ・ラーソンに賞賛の拍手をおくるべきかな。
ラーソンは約2年弱でミレニアム・シリーズを書き上げ、2004年出版社との契約にこぎ着けたところで心臓発作で他界している。無念である。彼が生きて書き続けていれば、ミレニアム以上の大作を読むことが出来たかもしれないのに。

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私感ではあるが、この映画自体も全体を通してトリロジー(三部構成)として成り立っていると感じる。(原作本も「ミレニアムシリーズ」というトリロジーの中の第一部となる作品)
��つ目は物語のテーマであるスウェーデンで抱える問題をリスベットというラディカルな人物を通して提起している。一方ミカエル(ダニエル・クレイグ)とヴァンゲル一族が関わって行くプロローグ。
次にミカエルとリスベット(ルーニー・マーラ)が繋がり、事件を徐々に紐解いていく中心的な部分。
最後に事件が解決した後日談を軽快なテンポで流しつつリスベットを一人の女の子として描く部分、そして迎えるほろ苦いラスト。
ヒロイン(リズベット)へ1人の女の子としての好感が沸き、なんとも言えない愛おしささえ感じてしまった。
キャスティングのよさもさることながら、ミカエル役のダニエル・クレイグとリスベット役のルーニー・マーラーの熱演が特に素晴らしかったと思う。
映画を見る前まで、クリンとした目がかわいらしいルーニーにエキセントリックなヒロインが演じられるのかと不安混じりだったが、メイク技術や彼女の役作りと演技力で見事にあのリスベットに変身していた。
顔自体「ソーシャル・ネットワーク」のかわいらしい女の子とはまったくの別人だったのがすごいと思う。
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原作は、第一作から三作目まで全作を通してスウェーデンでの「女性に対する不条理な偏見や暴力」というシビアな題材が扱われていて映画でも重要なファクターとして描かれている。
作者はジャーナリストで反人種差別主義者として活動していたこともあり、鋭い視点と日本の作家で言えば横溝正史の血族間の血なまぐさい歴史を交えつつ本作を完成させている。
実際、こういう問題(女性への暴力)がこの国において存在していたことを私は知らなかった。
DVDの特典映像ではこの映画に出演しているスウェーデン人であるマルティン役のステラン・スカルスガルドは「スウェーデンはそういった暗い国ではない」と否定的な意見を表明しているところも興味深かった。
主人公リスベットに対する暴力的なシーンは個人的に目を覆いたくなったのが本音だが、その後彼女が「目には目を」といった行動を取っているのはある意味救いがあったことだろう。(暴力は肯定してはならないが、幼い頃から暴力の被害者であった女の子が悲惨な状況のまま生き続けていくのには納得いかない。)
ただ、本で読むのと実際に映像で見るのとは数倍違っていることは確かだ。
裏を返せば、演出と演技力の素晴らしさの賜物だ。
小説は読む者に文章を通して「想像させる」というワンクッションがあるが、対して長い原作を限られた時間に凝縮させる映像作品は直接視覚に訴えなければならない使命がある。
「不快なシーン」「残酷な光景」を嫌悪しながらも、それを見られずにはいられない人間の本能、フェティシズムな一面は誰でも持っている。こういう人間の闇の部分が、「ドラゴン・タトゥーの女」でも浮き彫りにされている。
全編通して、やはり暗い...暗闇のシーンが多い。
そんな中でも、ブルーグレーの彩度を落としたスウェーデンの並木道や雪に覆われ、メタリックを帯びたような風景がなんとも美しい。フィンチャーという監督は暗闇に浮かぶアンバーを作品ごとに必ずと言っていいほど使って視覚的効果を煽ってくる。
「フィンチャー・アンバー」とでもいうべきか...この色が私は特に好きです。。。アンバーってオオカミの目の色なんですね。(直接関係はないけれど^^;)
あるサイトにデイヴィッド・フィンチャー作品ごとの色の効果を比較している面白い記事を発見しました。参考までにどうぞ。
Paint it Black?
A Look at David Fincher's Color Palette
�� http://www.fincherfanatic.com/paintitblack.pdf )

さらにマルティン・ヴァンゲル(ステラン・スカルスガルド)宅のドアがあく時のあの風が吹き込んでくるような音は、見るもののハラハラ感を煽るものとしてすばらしい効果をあげていたと思う。
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スウェーデンの風景と共に、よく出て来たのがAppleのコンピュータだ。
原作でも「アルミボディのアップルPowerBookG4、1GHzモデル」などなど作者がMac愛用者であることを伺わせる記述があった。おそらくラーソンもMac使いだったのだろう…ジャーナリストになる前はグラフィック・デザイナーだったらしいし。
イギリスの貴公子で一世を風靡したあのジュリアン・サンズを久々に見られたのもちょっと嬉しかった^^
この映画鑑賞後、本国スウェーデン版の方も見てみました。先にも述べたようにミカエル役の俳優がしっくりこないのが少し残念なところ。
ストーリー
ミレニアム誌の記者ミカエルは闇の大物実業家の武器密売をスクープし、名誉毀損で訴えられ裁判で敗訴し全財産を失ってしまう。ミカエルに、別の大物実業家ヘ ンリック・ヴァンゲルから一族の謎を解明して欲しいとの依頼を受ける。見返りに名誉毀損裁判を逆転させるような証拠を渡すという。謎とは、ヘンリックが溺 愛していた少女ハリエット・ヴァンゲルが行方不明になった40年も前の事件であり、一族の誰かに殺されたという。
ミカエルはドラゴンの刺青をしたフリーの天才ハッカーであるリスベットとともに捜査を進め謎と事件を解決していき、さらに猟奇連続殺人に関わる一族の秘密を知ることになる。

キャスト
ヘンリック・ヴァンゲル     クリストファー・プラマー
マルティン・ヴァンゲル     ステラン・スカルスガルド
ディルク・フルーデ     スティーヴン・バーコフ
エリカ・ベルジェ     ロビン・ライト
ニルス・ビュルマン     ヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲン
アニタ・ヴァンゲル     ジョエリー・リチャードソン
セシリア・ヴァンゲル     ジェラルディン・ジェームズ
ドラガン・アルマンスキー     ゴラン・ヴィシュニック
グスタフ・モレル警部補     ドナルド・サムター
ハンス=エリック・ヴェンネルストレム     ウルフ・フリバーグ
ホルゲル・パルムグレン     ベント・C・W・カールソン     
プレイグ     トニー・ウェイ
ハラルド・ヴァンゲル     ペル・マイヤーバーグ
ペニラ・ブルムクヴィスト     ジョセフィン・スプランド
アンナ・ニーグレン     エヴァ・フリトヨフソン     
ハリエット・ヴァンゲル     モア・ガーペンダル
若年のヘンリック・ヴァンゲル     ジュリアン・サンズ     
ビルエル・ヴァンゲル     マーティン・ジャーヴィス     
イザベラ・ヴァンゲル     インガ・ランドグレー
スタッフ・作品情報
監督     デヴィッド・フィンチャー
脚本     スティーヴン・ザイリアン
原作     スティーグ・ラーソン
製作     ソロン・スターモス、オーレ・センドベリ、スコット・ルーディン、セアン・チャフィン
公開
2011年12月20日(アメリカ)
2011年12月21日(スウェーデン)
2012年2月10日(日本)
 
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