My Cinema Talk World: ペーパーボーイ 真夏の引力 ― 20歳男子、最初で最後の恋

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2017/07/23

ペーパーボーイ 真夏の引力 ― 20歳男子、最初で最後の恋


ソウル・ミュージック最高!ラストで涙、涙...


なんでかなぁ。
全然評価されてないんです、この映画!
みる人のほとんどが、原作(原作 ピート・デクスター)に忠実なクライム・サスペンスとして見ている人が多いようです ――

ペーパーボーイ 真夏の引力(原題: The Paperboy)

監督:リー・ダニエルズ / 製作年:2012年


ストーリー
1969年フロリダ、問題をおこして大学をやめたジャック(ザック・エフロン)は、父親が経営する地方紙で新聞配達を手伝う日々を送っていた。
そんな中、マイアミで新聞記者をする兄ウォード(マシュー・マコノヒー)が、過去に起こった殺人事件で死刑の判決が出たヒラリー(ジョン・キューザック)が無罪かもしれないという取材をするため、同僚のヤードリーとともに故郷に帰ってくる。
ジャックは、雑用係として兄の手伝いをはじめる。
ある日ヒラリーの婚約者を名乗るシャーロット(ニコール・キッドマン)が訪ねてくる。
ジャックは親子ほども年上の彼女に魅かれていくのだった。

キャスト
ザック・エフロン/ジャック
ニコール・キッドマン/シャーロット
マシュー・マコノヒー/ウォード
ジョン・キューザック/ヒラリー・ヴァン・ウェッター
メイシー・グレイ/アニタ
デヴィッド・オイェロウォ/ヤードリー
スコット・グレン/W.W
ネッド・ベラミー/タイリー・ヴァン・ウェッター
ニーラ・ゴードン/エレン

スタッフ・作品情報
監督・脚本:
リー・ダニエルズ

製作:
リー・ダニエルズ
エド・カゼル3世
カシアン・エルウィズ
ヒラリー・ショー

製作総指揮:
ダニー・ディムボート
トレヴァー・ショート
ジョン・トンプソン
ボアズ・デヴィッドソン
マーク・ギル
ヤン・デ・ボン

原作・脚本:
ピート・デクスター

音楽:
マリオ・グリゴロフ

配給:
ミレニアム・フィルムズ
日活

原題:The Paperboy

アメリカ南部のジトーっとした暑い夏。

照りつける太陽 ――
舞台となるフロリダ モート郡(架空の地域です)は、まだ人種差別と格差社会が蔓延(はびこ)る。
殺人を犯したとして刑務所に入っているヒラリー・ヴァン・ウェッターは、社会の下層に位置する人間 ―― 現在ではホワイトトラッシュなどと呼ばれる貧困階級だ。
居をかまえる地域はフロリダの沼地、ヘビやワニがその辺にうじゃうじゃしている。
ぶら下げられたワニの腹を切り裂くと、なまなましい血と臓物が滴る。
ヒラリーの無実を暴くべく、4人の男女が集まり動き出す ―― 最終目標はそれぞれ違うにしても。
不快指数100%のこの世界に、追い討ちをかけてストーリーはエゲツないことこの上ない。
終盤の転げ落ちるような怒涛の展開には、こちらまで精神がどうにかなりそうだ...まるで湿地帯の沼にぶち込まれたみたいに。

ヒラリーと面会するジャック、ウォード、シャーロット、ヤードリー

ジャックを取り巻く2人の女と3人の男

ピート・デクスターの原作よりも、ジャックと2人の女 ―― シャーロットとアニタ(メイシー・グレイ)、ジャックとウォードのジェンセン兄弟の人間模様がフィーチャーされている。
さらにシャーロットを中心にヤードリーとヒラリー、そしてジャックの入り乱れた男女関係が絡まる。
アニタ以外は劣等感を抱えている彼ら、その繊細な部分を演じきった俳優陣の熱演は見応えがある。
エンターテイナー的意味で最も注目を浴びたのが、ニコール・キッドマンの怪演だろう。
全くもってそうだ ―― ザック・エフロンにオシッコかけまくり、ヒラリーに命じられるまま人々の熱い視線の前で自慰行為。
年齢に似つかわしくないグリッターなドレス&メイク。
ブロンドのウィッグのを脱ぐと、ボリューム感がなくショボさが隠せない。
そんな中年女の汚れ役に徹していたニコールに拍手を送りたい!

恋しい母親の話をするジャックとウォード

ニコール・キッドマン、マシュー・マコノヒーを凌駕したザック

そんなエンターテイナー、ニコールの熱演を上回っていたのがジャックを演じきったザック・エフロンだ。
ジャックは5歳の時に母親が出奔、それからは黒人のメイド アニタに育てられる。
アニタは、彼にとっての母親であり恋人だ。
よく聞く音楽もアニタの影響でソウルミュージックであることも、愛おしく感じてしまう。
彼は「母親に捨てられた」と思い込んでいたから、女性が苦手で学校生活でも女の子と付き合ったことなどなかった。
そこに現れたのがシャーロットだ。
シャーロットは、母であり恋人で、性欲の強いバービー人形だった
(劇中のセリフより)

シャーロットを見つめる視線、表情、シャーロットと一線を超えたあと急に態度が変わる幼稚さの抜けきらないところなど、大人になりきれていない20歳男子を熱演しているザック・エフロン。
その演技はどれをとっても素晴らしい!
お尻丸出しの体当たりの演技を見せたマシュー・マコノヒーをも超えている。
ニコール とマコノヒーの怪演  VS  ザックの正統派の演技
といったところか ――

1969年 ジャック20歳の暑い夏の物語

ジャックと同じようにウォードもトラウマを抱えている。
自分を痛めつけ貶めること、権力に立ち向かい悪を暴くことを免罪符と考えていたのかもしれない。
先に書いたように、ラストは怒涛の顛末があり、ジャックは大切なものを一気に失ってしまう。
後に忘れられない1969年夏の物語を書き上げ、出版することになる ―― そう、彼は作家になったのだ。
何かを得ることで、何かを失う。
そんなちょっぴり甘くて切ないラスト ――
エンドロールでアル・ウィルソンの「Show & Tell」が再び流れると、涙で画面が見えなくなってしまうのだ。

劇中に流れるソウル・ミュージック

アニタの影響を受けたジャックがいつも聴いていたのは、ソウル・ミュージック。
どれもクールなナンバーばかりで、曲の入れ方がなかなか良い。
(細かいことをいえば、それぞれ発売された時期と作品の時代設定との食い違いは見られるのだが。)

劇中それぞれ2回流れる「I Just Wanna Wanna(Performed by Linda Clifford /1979)」と「Show & Tell(Performed by Al Wilson / 1973)」は、1970年代にレコーディングされた曲で、シャーロットと出会ってからのジャックの心情を詩にしたような切ないナンバーだ。

さて
ペーパーボーイ 真夏の引力
ストーリーを追うよりも、登場人物の表情を追って見て欲しい映画。
ただ、今作が否定的に扱われた原因として考えられるとしたら、クライム・サスペンスとヒューマン・ドラマがごちゃ混ぜになって、焦点が絞り切れていなかったのかもしれない。
脚本は、原作者のピート・デクスターも協力している。

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