My Cinema Talk World: 「her/世界でひとつの彼女」— 人間性をも凌駕してしまったAI。

作品インデックス

2014/07/08

「her/世界でひとつの彼女」— 人間性をも凌駕してしまったAI。


長い間待ち望んだ映画を地元から少し離れた隣県栃木まで出向き観てまいりました。
実は、我慢できず海外版DVDを予め観ていたのですが、やはりこの作品は劇場で観なければならない…そういう熱い想いに至りました。。
自宅でDVDで観るのとはひと味もふた味も違って見えました。
昨日観た劇場はMOVIX宇都宮のシアター4。こじんまりしたスペースでスクリーンも程よい距離感で席はほぼ中央でした。

ストーリー
そう遠くない未来のロサンゼルス。
ある日セオドアが最新型のAI(人工知能)型OSを起動させると、画面の奥から明るい女性お声が聞こえる。
彼女の名前はサマンサ。AIだけどユーモラスで純真で、セクシーで誰より人間らしい。
セオドアとサマンサはすぐに仲良くなり、夜寝る前に会話をしたり、デートをしたり、旅行をしたり…一緒に過ごす時間はお互いにとっていままでにないくらい新鮮で刺激的。
ありえないはずの恋だったが、親友エイミーの後押しもあり、セオドアは恋人としてサマンサと真剣に向き合うことを決意。
しかし、感情的で繊細な彼女は彼を次第に翻弄するようになり、そして彼女のある計画により恋は予想外な展開へ ―― 。
公式サイトより)

キャスト
    ホアキン・フェニックス    セオドア・トゥオンブリー
    エイミー・アダムス    エイミー
    ルーニー・マーラ    キャサリン
    オリヴィア・ワイルド    デートの相手
    クリス・プラット    ポール
    マット・レッシャー    チャールズ
    ポーシャ・ダブルデイ    イザベラ
    スカーレット・ヨハンソン    サマンサ(声のみ)

スタッフ・映画情報
監督:    スパイク・ジョーンズ   
脚本:    スパイク・ジョーンズ   
撮影:    ホイテ・ヴァン・ホイテマ   
美術:    K・K・バレット   
衣装デザイン:    ケイシー・ストーム   
編集:    ジェフ・ブキャナン    エリック・ザンブランネン   
音楽:    アーケイド・ファイア    オーウェン・パレット
製作会社     アンナプルナ・ピクチャーズ
配給      ワーナー・ブラザーズ(アメリカ合衆国)アスミック・エース(日本)
公開      2013年10月13日(アメリカ合衆国 NYFF)
         2014年1月10日(アメリカ合衆国の旗)
         2014年6月28日(日本)
公式サイト:    http://her.asmik-ace.co.jp/




スパイク・ジョーンズという方は、特別な感性の持ち主だと感じます。核心となるストーリーとこの発想、想像力の豊かさに併せてエモーショナルな表現力は映画監督という枠では説明できないほどの表現者、クリエイターとしての資質は褒め言葉が出ないです。
この方の頭脳も最新型のAIでなではないか...たとえそうだとしても人工知能の作品にしてはやさしさと温かさに溢れています。
もっと早くに感想をupしたい気持ちもあったのですが、自分の拙い感想で作品を穢してしまいたくないという臆病風に吹かれまして(別に多くの人の目に触れるわけではないのに)時期を見計らっていました。自分にとって大好きな映画の感想ほど筆がすすまないものはないのです。とにかく自分の中でその時が来るのを我慢強く待っていました。それほどこの映画は私にとっても特別なものになりました。
近未来が舞台、AIとの恋...なんとなしにメタリカルで人間の温もりなどは感じられないつるんとしたイメージが真っ先に浮かびます。カプセルの中で寝起きして家の中に便利なロボットがいてなんでも手伝ってくれたり…そんな短絡的で勝手な絵が浮かんだりしていました。よくよく考えれば近未来というのだからおそらく2020年代とかそのちょっと先とか、そのくらいでしょう。
今でもネット上での繋がりが気楽だからと「人ばなれ」とか「ひきこもり」が進行しています。ネット上であれば自分が気に入らなければディスったりブロックしたりネットがあきればスイッチオフが簡単にできるけれど、人間関係はそうたやすくはいかない。殊に恋愛となれば心身ともに余分なエネルギーを消費するし、失恋すればそれこそしばらくは傷が癒えないという痛みがともなう。
セオドアも恋愛から結婚に至り別れを経験し、離婚調停という面倒な手続きから逃げるように生活している。彼の仕事は恋人や友人にかわって手紙を書く代筆業、ここも面白いところ。ネットやPCに頼る時代に手紙という古風な手法を頼り人に想いを伝えたい人たちがいて行間や手書き(実際はPCで印刷している)に感情を揺さぶられるということ。
でも、セオドアが仕事を終えて電車に乗ると周りの人たちは皆スマホのようなものに向かってブツブツ話しかけているんですよね。この光景もすでに似たような状況が今の時代に在るものでSiriを使っている人はそう多くはいないけれど常にスマホが友達で誰かに話したい何かをSNSに投稿したりチャットしたり。自分もご多分に漏れずです。



セオドアもそうだけど、みんな他者(人間)との関係それに付随する苦痛やストレスと向き合うのが面倒になっているんですね、多分。
彼はキャサリンを「忘れたい、封印したい」と思っているのに時々、彼女と暮らしていた頃のほんのり甘い思い出が蘇ってくる。サマンサとの楽しい日々が始まってようやく忘れかけていたけれど離婚の手続きをするために久々にキャサリンを目の前にして彼女への想いが再燃してサマンサとの関係もなんとなくぎくしゃくしてしまう。生身の人間にジッと見つめられて自分の痛いところを言われて何か忘れかけていた感情が蘇ったのだと思います。優秀なAIであるサマンサはそんなセオドアの心の変化を感じ取り生身の体がない彼女だからこその驚くべき手段を思いつきます。
セオドアを深く愛してしまったサマンサはその愛によって成長し、人間特有のさまざまな感情も憶え進化していく。
姿かたちのないAIとの恋愛には、セオドアの中にキャサリンと過去に肌で感じたような記憶は残らないけれど、サマンサはその時の恋する感情を音楽にしたり言葉にしたり努力をします。そんなサマンサがとてもけなげ過ぎる。そしてセオドアがAIであるサマンサと恋に落ちている時でも人間との恋愛では恋人同士手をつないだり、会話したり、踊ったりするのに相手の体が存在しない状態だから端から見ると彼が1人で変な行動をとっているとしか見えないんです。これがまた滑稽で愉快で可哀想でもあり涙腺が緩みっぱなしでした。
人間であるかAIかにかかわらず、それぞれ人が通過して来た思い出は1冊1冊の本に綴られているよう...愛おしい記憶に包まれている感覚をあなたは忘れてしまっていませんか?ってメッセージがスクリーンから伝わってきました。映画の中の流れる素敵な空気と相手を想う気持ちの愛おしさを感じます。ピッタリくる音楽に酔いしれて、まるで大好きな本を読んでいるときの行間を感じるような心地よさに浸ることができます。ストーリーをストーリー(スクリプト)で構築しないスパイク・ジョーンズの手法は、肌と肌でぬくもりを感じることができないセオドアとサマンサの特別な空間を映像と音で完璧に描いてみせました。この作品の重要ツールである”行間”に見事なまでに揺さぶられました(行間…最近この言葉を連発していますが^^;)恋愛の相手に肉体がない分、素敵な言葉が2人の会話に凝縮されているんです。
そして、AIたちは人間の感情をも凌駕してしまった...
ラストはほろ苦くて切ないけれど「相手を感じ続けること」に行き着く。親友であるエイミーと二人で肩を寄せ合うショット、微かに聞こえる息づかいが脳裏に焼き付いて離れません。



昨年公開された「ゼロ・グラヴィティ」は映画技術に革命をもたらした作品なら、「her」は発想の革新とでもいうべきでしょう。
最後に、服装は地味で髪はボサボサに近く、女性オーラを発していないエイミー・アダムスがこの映画で特に素晴らしい演技をしていると思いました。
もちろん、ホアキン・フェニックス、サマンサの声のスカーレット・ヨハンソンの演技はいわずもがなです。 あと、チャットシーンで出てくる「死んだ猫で首を絞めてーっ!」みたいなセリフ吐きながらプイッと去って行くわけわかんないSexykitten役(声のみ)は「Life!」のクリスティン・ウィグだったんですねー。




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