My Cinema Talk World: 「フルートベール駅で」— ある若者のかけがえのない一日の物語

作品インデックス

2014/09/06

「フルートベール駅で」— ある若者のかけがえのない一日の物語


「もっと頑張らなければ 、自分がもっと成長しなければ家族を幸せにできない」
そんな気持ちは、誰でも持ったことがあるはず。私もしょっちゅうそんなことを考えながらダラダラと今に至っています。
「明日こそは...」という気持ちは万人共通です。
本作の主人公オスカーもそんな普通の若者でした。

キャスト
オスカー・グラント:    マイケル・B・ジョーダン
ソフィーナ:    メロニー・ディアス
ワンダ:    オクタヴィア・スペンサー
カルーソ警官:    ケヴィン・デュランド
イングラム警官:    チャド・マイケル・マーレイ
ケイティ:    アナ・オライリー

スタッフ
監督:     ライアン・クーグラー
脚本:     ライアン・クーグラー
製作総指揮:    マイケル・Y・チョウ 、 ボブ・ワインスタイン 、 ハーヴェイ・ワインスタイン
製作:     フォレスト・ウィテカー
撮影:     レイチェル・モリソン
音楽:     ルドウィグ・ゴランソン
原題:     FRUITVALE STATION
製作年:    2013年
製作国:    アメリカ
配給:    クロックワークス
公式サイト: http://fruitvale-movie.com/

 若干のネタバレふくみます...

恋人ソフィーナと仲直りした朝。
「娘の父親としてりっぱな人間にならなければ」と心に誓ったその日は大好きな母親の誕生日であり大晦日。
娘を保育園へ恋人を職場に送り届け、母に「Happy Birthday!」のメールを送る...遅刻し、職を失った。
「だめだ、オレ」自己嫌悪に陥るオスカー、誰にでもそんな日はある。
彼は親切で優しい気さくな若者だ。職場(だった)のスーパーの鮮魚売場で友達としゃべっているところに居合わせた白人女性、食材がわからず何を買うか考えあぐねている彼女のために自分の祖母に電話をかけアドバイスしてもらう。
給油にいくと人懐こく近づいてくる犬に話しかける...目を離してしばらくして悲痛な叫びが聞こえ血を流して犬が倒れている。
瀕死の犬を抱きかかえて道路脇で話しかける。ほどなく犬は死んでしまった。
ハッパを売ることはもうやめにした、常連客にもっていたハッパを金をとらずに渡した。
娘タチアナをこの上なくかわいがっているオスカーは彼女がベッドに入るまで面倒をみる。ソフィーナの姉にタチアナを預けた後新年を友達と楽しく過ごすため恋人を連れて電車で出かける。花火をみたあと電車の中で乗り合わせた人々とカウントダウンする、数時間後最悪の事態が怒ることに気づくこともない。



死に出会うたび、年を重ねるにつれて「明日の朝には生きていないかもしれない」といういわれのない不安に駆られる。
突然不慮の事態に遭遇し、何の覚悟も準備もないままに愛する人たちと別れなければならない不幸な人たちがいる。自分も明日はどうなるか、その中のひとりになることもあり得るのだ。
22歳の若者は「まともな人間になろう」と自分に誓った次の朝に死んでしまった。愛する娘の成長も見届けられないままに...

2009年元旦に実際におこった事件であり、人種差別を扱った映画ではある。
しかしながら、その一言では片付けられない無情さ、残酷さが「人種差別」という耳慣れた言葉を越えた大きさで伝わってくる。
日常の中のやるせなさを淡々と表現しながら、オスカーの人物像がみずみずしい映像で描かれている。
普通に手にしている携帯電話の青白い画面の演出も効果的で、その携帯で事件現場にいあわせた人々は動画を撮影をし、後に人々が事件の全貌を知る証拠となる。
日中最期を看取った犬のように無機質なアスファルトに血を流して横たわるオスカーの姿が胸を打つ。
本作でライアン・クーグラー監督は初監督作品と思えないほど素晴らしい仕事をしている。わたしの中では「ダラスバイヤーズ・クラブ」に匹敵するほどのパワーを感じる作品でした。

冒頭の
「本当に大切なのはお前(ソフィーナ)とT(タチアナ) だけなんだ、永遠に...」
というオスカーの言葉が響きます。
人種差別が絡んだ事件の映画化であり、銃社会にも問題を投げかけているのではないでしょうか。
ずーんと重く響く、それとともにその日を生きる大切さを教えられる作品でした。