My Cinema Talk World: ゼア・ウィル・ビー・ブラッド ― 油(オイル)が噴き出す、血が流れる !!

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2017/08/12

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド ― 油(オイル)が噴き出す、血が流れる !!

タイトルのフォントが宗教(聖書)っぽくて良いです

終始流れる不穏な空気にドキドキ。絶句する大団円


ポール・トーマス・アンダーソン の「ハードエイト Sydney (1996)」「ブギーナイツ Boogie Nights(1997)」に続く“連れ人シリーズ” 第三弾。
勝手に“連れ人シリーズ”なんて名前つけちゃいまいたが ―― 
この後、このシリーズは「ザ・マスター The Master (2012)」へと続くわけです。
「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」は、高く評価され各映画祭で監督賞、主演男優賞、撮影賞、作品賞と各賞を総なめにしています。


ゼア・ウィル・ビー・ブラッド(原題: There Will Be Blood)

監督: ポール・トーマス・アンダーソン / 製作年:2007年

ストーリー
20世紀初頭。一攫千金を夢見る山師の男ダニエル・プレインヴュー(ダニエル・デイ=ルイス)。孤児を自分の息子H.W.(ディロン・フリーシャー)として連れ歩く彼は、ある日ポール(ポール・ダノ)という青年から自分の故郷の土地に油田があるはずだとの情報を得て、西部の町リトル・ボストンへと向かう。そして、すぐさま土地の買い占めに乗り出す。そんな中、ポールの双子の兄弟で住人の信頼を一手に集めるカリスマ牧師イーライ(ポール・ダノ)が、ダニエルへの警戒を強めていく。
allcinemaより)



キャスト
ダニエル・プレインビュー     ダニエル・デイ=ルイス
ポール/イーライ・サンデー(二役)     ポール・ダノ
ヘンリー     ケヴィン・J・オコナー
フレッチャー     キーラン・ハインズ
H・W・プレインビュー     ディロン・フリーシャー
メアリー・サンデー     シドニー・マカリスター
H・M・ティルフォード     デヴィッド・ウォーショフスキー
ジーン・ブレイズ     ダン・スワロー
ウィリアム・バンディ     ハンス・ハウェス

スタッフ・作品情報
監督     ポール・トーマス・アンダーソン
脚本     ポール・トーマス・アンダーソン
原作     アプトン・シンクレア『石油!』
製作     ジョアン・セアラー
ポール・トーマス・アンダーソン
ダニエル・ルピ
音楽     ジョニー・グリーンウッド
撮影     ロバート・エルスウィット
編集     ディラン・ティチェナー
配給:
ミラマックス
ディズニー(日本)
公開     2007年12月26日(アメリカ)
        2008年4月26日(日本)

原題:There Will Be Blood

今回は、ちょっと怖いカルト教団の宣教師役とその兄と二役のポール・ダノ。

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ダニエル・デイ=ルイス演じるダニエル・プレインビューの他人を突き放した冷血漢、人非人っぷりが半端ない。
周りの人間を裏切ることなんて屁とも思わない山師。
金に相当卑しい人間なんだろうな、と最初そう思って見ていたのだが、どうやら金を儲けることがすべてではなく ―― 自分が誰よりも成功して、他の人間を見下したいだけらしい。
とにかく、自分以外の人間の成功が許せないのだ。

子役ながらH・W役のディロン・フリーシャーも素晴らしい!
 
セリフは一切なく、金を見つけるために黙々と真っ暗な穴の中で掘削作業を続ける冒頭のシーンは圧巻だ。
物語は、ダニエルを訪ねてきた青年ポール(イーライの双子の兄)からサンデー家が所有する牧場に石油が出るという情報を得たことから動き出す。
全編にわたり流れる音楽は、「何かが起きる感」半端なく不穏なノイズで ―― 何かの精神を逆撫でする音楽ではない音 ―― 容赦なく攻めてくる。
油田掘削中の爆発炎上事故、H・Wが聴力を失うシーンでは、“トントコトントコ...”という部族が儀式で踊る時に流れるようなリズムが鳴る、ここでもなんともアンバランスでザワザワとさせる不可思議な音だ。

冒頭に述べた“連れ人シリーズ”に話を戻すとしよう。
ダニエルの連れ人とは、今作では仕事場に連れ歩いている息子のH・Wだ。
先々、後を継がせようとしていたらしい。
H・Wは実は息子として育ててはいるが、油田掘削中に亡くなった仕事仲間が残した赤ん坊だった。
本作は、ダニエルと唯一親子の名前で繋がるH・W、そして山師と敵対するカルト宗教の教祖 ペテン師のイーライとのしがらみを描いている。

イーライ VS ダニエル
イーライと、騙し合い殴り合い、罵り合いを続ける ――
お互い自分が思い通りにいかない時にフラストレーションをぶつける相手にも見える。
子供の喧嘩のようでクスっとさせられる様相を呈している。
一方、仮の親子だったH・Wが聴力を失うと即、突き放す冷徹な仕打ち。
しかしながら、ダニエルを徹底的な「悪」と見なすか否かは、見る人次第だろう。
この作品では、背景にある肝心な部分をはっきりと描いてはいない ―― 彼がなぜ結婚していないか、幼少期をどう過ごしてこのような冷血漢となったのか。
それにしても、私個人としてはたとえ血は繋がっていなくても、ダニエルにとって心の底ではH・Wは本当の息子同然だったと思いたいのだ。


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以下、ネタバレに近い内容になります!ご注意してください!!

やがて迎えるあのラスト。
ここでダニエル・デイ=ルイスの演技は、最高潮に達する ―― 野次る、怒鳴る、罵る罵る!
プレインヴュー邸内ボーリング場(自宅にボーリング場があるのもすごい...2レーンだが)が舞台の大団円。
イーライの周りを歩き回る姿は、アヒルのようで滑稽でもある。
「お前は、ポールの副産物でしかない。母親の後産の汚物だ!」
とまで口汚く言い放つ。
悔し涙を流すイーライ ―― そう、ダニエルと戦うことは彼に土地の情報を売った双子の兄ポールと戦うことをも意味する。
イーライは、ポールに負けたのだ。
喜劇のようなシークエンスの果ては、地面から湧き出るオイルのようなどす黒い血が流れる。

ダニエル・デイ=ルイスの演技もさることながら、脇を固めるポール/イーライ・サンデー二役を演じきったポール・ダノ、H・W役のディロン・フリーシャーの演技も見ものである。

終始続く不穏な空気にビクビクさせられ、H・Wの不遇な運命にウルウルし、ダニエルとイーライとの戦いに笑いそうになるものの笑う余裕がない ―― そんな、かつてないタイプの映画だ。

原作ではダニエル・プレインビューは、ここまで悪人なのか。
原作『石油!』は、未読なので詳細はわからない。
しかしながら、盲目的な信仰(本作ではイーライが率いるカルト宗教)を否むためのニヒリズム的な立場から、監督(ポール・トーマス・アンダーソン)なりに表現した人格がダニエル・プレインビューなのかもしれない。

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