My Cinema Talk World: 「アメリカン・ヒストリーX」ーラストの衝撃に、息がとまる

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2014/01/19

「アメリカン・ヒストリーX」ーラストの衝撃に、息がとまる

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本作と「アメリカン・ビューティー」「セブン」は何度見てもラストで愕然とさせられます。
(あとは「レボリュショナリー・ロード」、「日陰のふたり」かな...あ、両方ケイト・ウィンスレットだひやひや
「後味が悪い映画」の上位に挙げられるべき作品でしょう。
エドワード・ノートンの演技がすごいし、鍛え上げられた体もムキムキではちきれんばかり。役作りもハンパない。
1998年のアカデミー賞主演男優にノミネートされていましたね。
弟ダニーを演じるエドワード・ファーロングも美少年全盛期。
見応えがあります...感受性、理性豊かな少年を好演しています。
ほとんどのシーンでスキンヘッドなのがもったいないですね。
監督さんがあまり知られていない、トニー・ケイという方です。
映画公開に際して主演のエドワード・ノートンとゴタゴタがあったらしい、曰く付きの作品です。

ストーリー

白人至上主義に傾倒するダニーの元に、兄デレクが三年ぶりに帰ってくる。デレクは三年前に黒人の車泥棒を殺した罪で服役していたのだ。兄の帰宅にダニーは喜びを隠せない。なぜなら、父親を黒人に殺害されたダニーは、兄のデレクを三年間崇拝し続ける日々の中で、兄以上に白人至上主義に身を染めていた。
しかし、三年ぶりに会うデレクは、以前とはまるで別人のように穏やかで公平な人間になっていた。彼は刑務所の中で何を見たのだろうか。そして、現代アメリカにいまだ蔓延る差別意識。衝撃の結末を提示しながら、同時にアメリカの慢性的な問題を印象的に描いた作品。
(Wiki より)

キャスト
デレク・ヴィンヤード      エドワード・ノートン
ダニー・ヴィンヤード      エドワード・ファーロング
ドリス・ヴィンヤード      ビヴァリー・ダンジェロ
ダヴィナ・ヴィンヤード      ジェニファー・リーン
デニス・ヴィンヤード      ウィリアム・ラス
セス・ライアン      イーサン・サプリー
ステイシー      フェアルザ・バルク
ボブ・スウィーニー      エイヴリー・ブルックス
マーリー      エリオット・グールド
ラモント      ガイ・トリー
キャメロン・アレクサンダー      ステイシー・キーチ

スタッフ・映画情報
    監督 - トニー・ケイ
    製作 - ジョン・モリッシー
    脚本 - デイヴィッド・マッケンナ
    撮影 - トニー・ケイ
    音楽 - アン・ダッドリー
    美術 - ジョン・ゲイリー・スティール
    編集 - アラン・ハイム、ジェリー・グリーンバーグ
    衣装(デザイン) - ダグ・ホール
    製作総指揮 - ビル・カラーロ、キアリー・ピーク、スティーヴ・ティッシュ、ローレンス・ターマン
    配給      ニュー・ライン・シネマ  、日本ヘラルド
    公開      1998年10月30日(アメリカ )2000年2月19日(日本)
    製作国      アメリカ合衆国
    製作費      $20,000,000
    興行収入   $23,875,127
    原題     American History X

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「怒りはきみを幸せにしたか?」
デレク(エドワード・ノートン)とダニー(エドワード・ファーロング)の兄弟を見守ってきた校長のスウィーニーはデレクに訊ねる。
あれほどまでに白人至上主義に傾倒し、周りの若ものを巻き込んだり、危険な思想に没頭する彼を説得しようとする家族を殺気走る勢いで論破していたあの頃。
デレクは、さめざめと泣きながらスウィーニーに助けを求める。
自分と同じ白人から酷い仕打ちを受けたことで、心も体もズタズタ状態。
黒人の首をへし折って殺害し、刑務所にはいった彼が本音で語り合える唯一の友となったのは黒人だった。
3年の刑期中に痛い目をみて初めて自分が誤っていたことを知るデレク。

兄デレクが出所した日から翌日の朝までをダニーの視点から語られます。
デレクと入れ替わるように弟ダニーがレイシストのグループに加わるという皮肉。
兄を崇拝する弟はまるで分身のようにスキンヘッドにタトゥを入れ、キャメロンの手下さながらに闊歩していた。
キャメロンは若者たちを利用し、レイシストのグループを立上げ自ら仕切る危険な男。
デレクもかつては彼が率いるグループに入り、若者達の中心になっていた。
「弟に近づくな!」とキャメロンを殴り倒したデレクに怒りをぶちまける弟。
ダニーもキャメロンのグループに参加しながらも、目の前で兄が黒人を惨殺する現場を目の当たりにし自分にも責任があると良心の呵責に苦しんでもいた。
そんな弟に兄は刑務所の中で起きた出来事について静かに語り始める。

アメリカンヒストリーXとは、スウィーニーがダニーのために特別に行う授業の名称だ。「わが闘争」の感想文を提出した彼に、スウィーニーはレポートの書き直しを明日朝までに提出するよう命じる。
兄の刑務所内での出来事を聞いてレポートを仕上げ、そして翌朝を迎えるのだった ――

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この映画で語られているのは、アメリカの人種差別問題だけではない。
銃社会の問題や、若者を利用して甘い汁を吸う黒幕=大人たちの存在が見えてくるのだ。
一部の大人たちが家庭内で差別的な発言をすることによって、子供たちに同じ思想が植え付けられて行く。
刑務所内での様子はまるでアメリカの縮図を見ているようだ。
このような争いを通し、アメリカを中心とした国家間で起きている現実も見えてはこないか。
国家が傾いてくると不満をぶつける場所がなくなり、弱い物がそのはけ口にされる...レイシスト的思想が横行しはじめるという構図も見えてくる。
憎しみは憎しみの連鎖にしかならない、そして新たな悲しみをも生み出すこととなる ――
それはラストシーンで静かに残酷に教えてくれるだろう。





黒人を殺してしまった後に銃口を向ける警察に手を上げるシーンでのエドワード・ノートンの狂気に満ちたあの目、表情。
鬼気迫るかれの演技は一度見たら忘れられないでしょう。
見た後、ズシーンと重いものが残る作品です。監督・撮影のトニー・ケイさんはその後日本で公開されていない「Lake of Fire」(2006)、デタッチメント 優しい無関心」(2011)などを監督しているようです。
まだ見ていないので是非観てみたいです。
この監督さんは、脚本に忠実に描くのではなく、俳優さんに即興を要求し作品の定型性を打ち破る手法で有名だそうです。

監督タグ:トニー・ケイ